洗練された和風の外装が目をひく、中野ブロードウェイ3階にある時計店「かめ吉」。
“まじめなとけいや”をモットーに、20年間営業を続ける老舗である。
長年にわたって時計業界の最前線を牽引し続けるプロ中のプロである「かめ吉」の箕浦誠店長に、昨今のコロナウイルスがロレックスや時計業界に及ぼしている影響について聞いた。
(※価格は6月4日時点のもの。)
マスクの着用を徹底している箕浦誠店長
――ロレックス市場は、今回のコロナ禍でどんな影響が表れていますか?
ロレックスの流通価格は、コロナの影響で一時的にかなり下がりましたね。
ただ、そうなると逆にこれを好機と見て買う人も増えます。そうすると価格はすぐ戻ってきます。
実はすでに、コロナ騒動による乱高下を経て、コロナ以前より価格が高くなっているモデルもいくつかあります。
今回の価格の動きは、ある意味でロレックスに本当に値段なりの価値があるのかどうかの実験のような側面があったと考えています。半ば強制的に相場がリセットされることで、あらためて市場原理によって適正価格が形成されたわけです。
結果として、価格は大部分戻ってきており、まさにロレックスの価値が本物であることが実証されたと思います。
デイトナも、一時は元の300万円から250万円まで落ちましたが、たった1ヶ月ですでに290万円まで戻っています。
――それはすごいですね。リーマンショックの時と比べても相当戻りが早いのでは。
そうですね。
しかも今回のコロナ禍では、リーマンショックの時と違い、人の移動がありませんでした。
それなのに、第二次世界大戦以来の経済ショックと言われる中でここまで価値が下がらないのは、やはりロレックスの強さが証明されたと言えますね。
――それでは、もう買い時は終わったのでしょうか?
正直に言うと、すでに買い時は終わったと考えられます。例えば、サブマリーナのノンデイト(Ref.114060)、エクスプローラーⅠ(Ref.214270)などは、コロナ以前より高くなっています。また、グリーンのサブマリーナ(Ref.11610LV)など、スポーツモデルはほぼコロナ前の価格に完全に戻りました。
――それでもなお買い時のモデルがあれば、教えていただけませんか?
目に見えて安いモデルはないですが、ピーク時より安いものはあると言えばありますよ。
ただ、コロナだから安い、というモデルはもうありませんね。
――コロナで価格が下がらないのには、ロレックスの本来の価値という他に、何か理由は考えられますか?
やはり、流通の停止があげられますね。
今回の騒動で工場が止まったり飛行機が止まったりしたことで、正規店でも入荷待ちの状態が続きました。その分平常時よりさらにレア度が上がって、価格も高止まりしやすくなっているのだと思います。
ただ、流通はすでに回復しているようですし、そもそもロレックス自体元々の流通量が少ないため、その辺りの影響は限定的です。
――お店としてはコロナの影響はありましたか?
もちろんありました。
インバウンド(※外国人が訪れてくること)が無くなったことによる影響は、確実に受けています。
ただ面白いことに、日本人のお客様は逆に増えました。
やはり気になっていたモデルの値段が下がったタイミングで買いたいと考える方が多いのでしょう。航空券と同じですね。
――なるほど。営業自体はされていましたか?
はい。居酒屋などの飲食店が20時までだったので、それを超えないように営業していました。
19:30だと少し遅いので、19:20まで(笑)
ちなみに今はもう通常の営業時間に戻っています。
中野ブロードウェイの他の時計店も同じように営業しているところが多かったですね。
ただ、必ずマスクを着用し、スタッフを半分にして人口密度を減らし、店内に消毒液を設置するなど、万全の対策をとった上での営業です。
当然、この措置は現在も継続しています。
――感染拡大防止と折り合いをつけつつ営業されていたのですね。通販の売れ行きはどうでしたか?
増えましたね。
やはり当店のお客様は、自分が感染すると周りに迷惑をかけてしまうというお客様が多いので、そうした自らの立場を考慮し、万が一のリスクを考えて通販という選択を取られるのだと思います。
また当店の方でも、広告を打ったり割引をしたりして、通販への誘引を行いました。
店内での様子
――なるほど。仕入れの方では、影響はありましたか?
うちは元々、市場などには行かずに、個人からの買い付けを主としています。また、仕入れ先としてはヨーロッパが中心です。
市場に行かない理由としては、相場が高いのと、状態の良いものが比較的少ない点があります。
また市場に行くとどうしても時間を費やすことになるため、その分「何か仕入れなければ」と考えて、満足のいくものでなくても買い付けてしまうからというのもあります。
今回のコロナ禍で、人の動きが止まって買い付け自体が難しくなりましたし、飛行機の運賃も上がって仕入れは非常にやりづらかったですね。
――個人からの買い付けは、コロナ騒動で増えましたか?
いえ、特に増えませんでした。
経済的な事情で売りに来るという方はいらっしゃらなかったですね。
生活の足しに売るというのではなく、株式の運用資金にと売るケースはありました。非常に高価な時計の話にはなりますが。
――なるほど。今回、正規のオンライン販売を開始した時計ブランドがありましたが、ロレックスもそのような路線はあり得ると思いますか?
僕はありだと思います。
今回の自粛期間中、テイクアウトで販路を広げている飲食店が多く、普段食べる機会のないものを食べることができるようになりました。
時計もオンラインであれば、普段お店に来ない人でも足を踏み入れやすく、様々な人の目に触れるきっかけにもなると思いますので、良いと思います。
現代は車もオンラインで買える時代ですからね。オンライン販売が人々に浸透してきているので、その波に乗るべきだとは思います。
とは言え、やっぱり私は現物を見てほしい気持ちがあります。
洋服にしろ時計にしろ、実際に触れて、自分の目で見た場合とオンラインではだいぶ異なりますし、美しいものに対する目を養うという点でも、お店に訪れて現物を見てほしいです。
オンラインの良さと実物を見る良さをうまく組み合わせて、オンラインで良いなと思ったものをお店で実際に見てから購入したり、その逆もありだと思います。
「STAY HOME週間」で在宅時間が増えましたが、今後もその名残は残っていくと思いますし、そうした消費者の行動に合わせて柔軟に対応していきたいですね。
ロレックスについて解説する箕浦店長
――本物を見ることとオンラインのそれぞれの良さがあるのですね。他にコロナ後の戦略は何かありますか?
まだ考えている途中ではありますが、若い人も入りやすいような、かめ吉独自のラインナップにしていきたいですね。
買える、買えないは別として、とにかくお店にきて見て欲しいからです。
後は、最近盛り上がっているYouTubeに進出するのも良いかもしれませんね。
箕浦店長は、店舗で実物を見てほしいと語る(店舗画像提供:かめ吉)
コロナ禍で経済が打撃を受ける中、ロレックスの価格がすでにコロナ以前の水準に戻っているという事実は、ロレックスの真価が証明されたことを意味するという箕浦店長の指摘は、ロレックス購入者にとっても、今後に役立つ重要な示唆であった。そしてまた、アフターコロナの社会では、ロレックスを取り巻く状況においても変わっていくことと変わらないことがあり、時計店も購入者もそれに対応していく必要があると感じさせられた。