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銀座の時計愛好家が信頼する名店に迫る コミット銀座 阿部オーナーインタビュー(後編)

 

銀座の名店、コミット銀座の阿部オーナーは優れた時計鑑定士でもある。

このことが、コミット銀座が名店たる理由にもつながっていることが前回の記事で明らかになった。
前回は、阿部オーナーの経営哲学を通じてコミット銀座が信頼される秘密を探ったが、それで見えてきたのは阿部オーナーの人物像だった。

今回は、あえて視点を変え、近年ますます盛り上がりを見せるプレミア時計市場の動向への鋭い眼差しを通じて、
時計鑑定士としての阿部オーナーの姿を探り、コミット銀座の信頼性の源泉に触れてみたい。

 

コミット店内のショーウインドー マニア垂涎の逸品の数々
撮影:Watch Lovers編集部

 

——ここ数年、ロレックスの価格が高騰していますね。

 

はい。例えばGMTマスターⅡに関して言えば、以前は80万円で売っていたものが今では100万円を軽く超えるようになりました。
中古価格が高騰して、現行モデルでは新品と中古の価格がほとんど変わらない状況です。デイトナに至っては、
毎日店舗を見て探し回る「デイトナマラソン」と呼ばれる行為が行われたりしているようです。
結果として、正規店では全く買えない状況になっています。正直なところ、本当に買いたい人が買えないような今の状態は、普通ではないと感じています。

 


ロレックス GMTマスターⅡ Ref.16710
画像:コミット銀座HPより


——そんなに高騰していることには何か背景があるのでしょうか。

 

少しさかのぼるのですが、リーマンショックの直前まで時計業界はバブル状態でした。
当時はロレックスに限らずあらゆるブランドの時計が幅広く売れていました。中古市場も非常に活発で、
下取りに入った時計もすぐ売れて、どんどん物が回っている状態でした。

ところが、リーマンショックを経て少し様相が変わりました。つまり、手堅いブランドのものしか売れなくなってきたのです。
その代表格がロレックスです。これが現在のロレックスの高騰につながったのではないかと思っています。特にここ一年くらいの高騰は顕著ですね。

 

——手堅いブランドというのは、どういうことでしょうか。

 

手堅いというのは、つまりリセールバリュー(売却価格)の安定的な上昇が期待できるということです。
言い換えると、投資目的で買われるブランドということですね。もちろんこれは価格高騰の背景としてそういう購入者が流入したというだけで、
購入者の目的が必ずしも投資目的であるとは思いません。時計としてのロレックスの魅力に惹かれて購入される方も、常にいらっしゃいます。
新しくロレックスの購入者となる方がいつの時代も流入し続けているので、リセールバリューも高く保たれているということだと思います。

 

——時計としてのロレックスの魅力というお話が出ましたが、阿部オーナーにとって思い入れのあるモデルはありますか。

 

ロレックスで言えば、デイトナのポール・ニューマンモデルは鑑定経験も人並み以上に積んできていますし、思い入れがあります。
ポール・ニューマンといえば希少モデルとして有名ですし、販売当初に買った方以外は偽物が多いという印象を持たれている方も多いと思います。
実際、少し前までは本物か偽物かを見分けるチェックポイントも確立されていませんでしたし、
インターネットもなかったので真贋を見極める方法が体系化されていませんでした。

 

——それでは阿部オーナーはどのようにしてポール・ニューマンの鑑定技術を身につけられたのですか。

 

私の場合は、以前勤めていたお店のオーナーが、本物の目利きを持った方でした。
そのオーナーのもとで知識や経験を積み上げることで、鑑定眼を磨いてきました。また、前のお店でも現在のお店でも、
本物のポール・ニューマンに触れる機会に多く恵まれてきていることも、非常に役立っていると感じています。
ただ、鑑定という技術は、感覚的な部分がとても大きくて、他のスタッフにコツを教えるのが難しいですよね。

 

——コミット銀座でもポール・ニューマンは扱われていますか。

 

価格の高騰以降、市場に出てくる個体が減ったこともあり、現在は当店での扱いはそれほど多くはありません。
でも、機会があれば是非扱いたいですね。ポール・ニューマンほどのレア個体ともなると、お店のPRにもなりますし(笑)

 


ロレックス デイトナ Ref.6239ポールニューマンタイプ 手巻
画像:コミット銀座店よりご提供

 


——レア個体といえば、コミット銀座には1000万円を超えるような時計が多く展示されていますよね。

 

はい。お客様から買取させていただいたもののほか、海外のオークションで手に入れたものもあります。
現在はそもそも「状態のいい個体」が手に入りにくくなっていますし、
中にはどこかしらに疑問符の付くようなヴィンテージ個体も多く流通しています。
そのような背景の中で、お客様に「本物の良品」を見ていただく機会を提供したいと考え、展示を行っています。

 

——そういったところにも、コミット銀座の「顧客第一主義」というポリシーが反映されているわけですね。

 

▼店内に提示されているレアな時計の数々


ロレックス デイトナ Ref.6263 黒文字盤
撮影:Watch Lovers編集部

ロレックスで一番と言っても過言ではない人気モデル「デイトナ」。 これはその中でも年々国内外で価格が高騰しているデイトナの手巻きモデルだ。
プラスティックベゼル仕様の黒文字盤は特に人気が高い。

 


ロレックス デイトナ Ref.16520
撮影:Watch Lovers編集部

ゼニス社「エルプリメロ」をベースに、ロレックス独自の改良が施されたムーブメントが使用されているモデルで、
現在価格が高騰中。これはその中でもクロノグラフのダイヤル内が経年変化によって茶色く変色した「パトリッツィ」と呼ばれる、レア個体。

 


ロレックス シードゥエラー Ref.1665 COMEXモデル
撮影:Watch Lovers編集部

Ref.1665をベースに製作された「COMEX」モデル。
ロレックス社がフランスのダイビング会社「COMEX」社のオーダーを受けて製作した特殊モデルで、
文字盤にCOMEXのロゴが印刷されており、裏蓋には支給番号の刻印がされている。

 

 

——話は変わりますが、現在のロレックス価格高騰の一因として、リセールバリューを求めるユーザーが増えたということをご指摘いただきました。
使いやすさなどとリセールバリューは必ずしも直結しないのではないかと思うのですが、最近の風潮の中で、ロレックスの評価のされ方が変わったりしたようなところはありますか。

 

そうですね。以前は、例えば針が変わっていたとしてもオーバーホールしているものがよく売れていました。
部品が新品なので普段使いに向いていますし、比較的価格も安いですからね。
しかし最近は、部品自体もオリジナルのまま残っているものの方が人気になりました。
お客様それぞれの用途や考え方で好みは分かれますが、一般的な風潮は変わったと言えます。

 

——部品がオリジナルのまま残っているとなると、ただでさえ買えなくなっているというデイトナなどでは、さらに希少なものになっているのでしょうね。

 

おっしゃる通りです。中には海外にまでレアものを求めて買いに行かれる方もいるみたいです。
私としては、日本国内もいい個体の集まる、良質な市場だと思っています。日本では、売る側がかなり気を配っていますからね。
日本の市場の特徴として、日本の売り手は正直な人が多く、お客様から信頼されているという点もあると思います。

私の体験談なのですが、海外から当店にいらしたお客様に、店頭にあったサブマリーナについて聞かれたので、
状態や価格などについて細かくご説明いたしました。するとそのお客様は、
「僕の国ではここまで詳しくは教えてくれないし、むしろあえて情報を隠して客を騙そうとする人もいる。このお店の対応はとてもリスペクトできる」との
お言葉をいただきました。私としては、お客様に誠実に接することは当たり前のことだと思っているのですが、やはり嬉しかったですね。

 

 


ロレックス サブマリーナ Ref.5513
画像:コミット銀座店よりご提供

 

 

——意地悪な質問になってしまうのですが、場合によっては「今は買わないほうがいい」という商品もありますよね。
そういった場合もそのことを顧客に伝えるのですか。

 

もちろんです。“コミット”というお店のスタイルとして、正直にお伝えすることは当然のことですので、
今無理して買わない方がいいと思った時には、そのようにお客様にお話ししています。

 

——それはすごい。そこまでとなると、いくら日本の売り手でも誰でもできることではないと思います。

 

そうかもしれませんね。しかし、このような姿勢でお客様と接していくことで、お客様の信頼を得ることができ、後々ご購入に繋がることも多いです。
「顧客第一主義」というのは、実は店舗側にとっても結局は一番メリットが大きくなると思っています。
ですから、当店ではそういった姿勢もさることながら、値付けなどにおいても、「いいものをリーズナブルに」をキャッチフレーズに、
「安かろう、よかろう」というところを目指しています。

 

——聞けば聞くほど、コミット銀座というお店は稀有なお店ですね。

 

ありがとうございます。これからも、お客様の利益を最大にする「顧客第一主義」というポリシーを大切に、
もっともっとお客様に信頼していただけるお店を目指してまいります。

 

 

 

価格が高騰気味の流れであっても、低い手数料での委託販売や確かな鑑定眼、
そして顧客第一主義というポリシーによってお客様からの厚い信頼を得ているコミット銀座。
だからこそ、「本物の良品」が多く集まり、阿部オーナーの言う「安かろう、よかろう」が実現されているのだろう。

なかなかお目にかかれないレア時計コレクションもさることながら、
阿部オーナーの人となりそのものも魅力のコミット銀座、時計好きならぜひ訪れてみたいお店だ。