ロレックスが創業したのは1905年。実に115年もの長きにわたってこの一流ブランドが多くの人を惹きつけてやまない、その魅力は一体何なのだろうか。ロレックスの魅力にとりつかれ、人生の半分以上をロレックスとともに過ごしてきた、ロレックスコレクター歴35年を誇る筋金入りのコレクターにお話を伺った。
――ロレックスにハマったきっかけは何ですか?
20歳の誕生日に親父が私のバースイヤーの’62ロレックスのサブマリーナ(Ref. 5513)をプレゼントしてくれたことです。親父はデザイナーで時計やカメラなどに造詣の深いお洒落な趣味人でした。以来、ロレックスの魅力に取りつかれました。

――それから35年にわたるコレクションが始まったのですね。
今ではデイトナを中心にスポーツロレックスのコレクションは30本近いですが、学生のときに自分のお金で最初に買ったのは、中古の’64エアキング(Ref. 5500)というモデルです。当時は10万円もしなかったと思います。
それを皮切りに、一つ一つ買い足していくようになりました。
塾講師や飲食店のアルバイトで貯めたお金で、コツコツとアンティークロレックスを集めていました。
――なぜアンティークロレックスにしようと思ったのですか?
新品に興味がなかったわけではないのですが、理由の一つはズバリ値段です。
今では80年代の時計はアンティークのカテゴリーに入りますが、当時は正に中古モデルですから、手の届く値段だったのです。
月に一度は神戸・三宮から元町のJR高架下に軒を連ねる骨董屋にアンティークロレックスを探しに行っていましたね。
気に入ったものがあれば取り置きしてもらって、アルバイトで貯めたお金で買うということの繰り返しでした。
当時はデイトナでも50万円くらい、ポールニューマンなどは意外にも人気がありませんでした。GMTマスターやサブマリーナは10万円台くらいだったので、アルバイトをすれば何とか手に入りました。
――そのころの神戸の骨董屋さんにはどんなモデルが並んでいたのですか?
私が集めていたアンティークロレックスよりもっと古い、1920年代から1950年代くらいのバブルバックというモデルが売られている店がたくさんありました。
当時はバブルの時代でロレックスと言えばコンビのデイトジャスト(Ref. 16233)などの現行モデルが全盛期だったのですが、一方でコレクターにとってはバブルバックの全盛期だったのです。
とはいえ、私自身はドレス系のロレックスに全く興味がなく、ステンレスのスポーツモデルばかり探し続けていました。
その後、社会人になってからも変わらず、デイトナ、サブマリーナ、GMTマスター、エクスプローラーⅠ&Ⅱなどを集め続けてきました。
当時は、アンティークロレックスの資産価値がこんなに高まるとは思ってもいませんでした。ただただお店に足を運んで「こういうモデルがあるんだ!」といったことを知り、のめり込んでいったのです。
――なぜスポーツモデルを集めるようになったのですか?
やはりスポーツロレックスならではの武骨なデザインが好みに合ったからだと思います。
デイトナは、エリック・クラプトンという好きなミュージシャンが着けていて惹かれましたし、ポールニューマンは、それこそ映画俳優のポール・ニューマンがレースの時に着けていて恰好いいと思いました。
――ロレックスを集めるにあたって、どのように情報を入手していたのですか?
その頃は今のように専門雑誌などもほとんどなかったですし、私の一番の情報源は、高架下の骨董屋の店主でした。
足繁く通って顔見知りになってはロレックスのことを色々と教えてもらっていましたね。
すごく勉強になりましたし、何よりも凄く楽しかったなぁ(笑)。それでさらにロレックス熱に拍車がかかりました。
――35年のロレックスコレクター歴の中で、特に思い入れの強い時計はどれですか?
それはもう間違いなくデイトナですね。
最初に買ったのは、’62コスモグラフ・通称プレデイトナ(Ref. 6238)というデイトナの前身モデルで、これをきっかけにクロノグラフモデルにとても惹かれていったのです。
一時はロレックス以外にもクロノグラフモデル限定で、ブライトニングやオメガのスピードマスターの古いモデル、チュードルのクロノタイムなどにも手を拡げていたほどです。
クロノグラフの3つのリューズと数字の入ったベゼルの恰好良さに痺れました。
でも、やはり結果的に行きつくところは、ロレックス・デイトナなのです。
当時デイトナを着けている人は周りにほとんどいませんでしたが、私は常に掘り出し物の手巻きデイトナを探し回っていましたね。
社会人になって初めて新品で買ったモデルが、デイトナ初の自動巻きモデル’91デイトナ(Ref. 16520)でした。当時は普段使いしていましたが、これも今では相当なプレミアがついていますね。
その後はモデルチェンジ毎に新作デイトナを購入して使用してきました。
プレデイトナ Ref. 6238
画像:インタビュー者ご提供
デイトナ Ref. 16520
画像:インタビュー者ご提供
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――時計はシーンによって使い分けているのですか?
少し前までは、一世一代のプレゼンテーションの時は、デイトナの中でもポールニューマン・通称パンダ(Ref. 6263)、もしくは’69ポールニューマン・通称赤巻き(Ref.6264)と決めていました。
また、夏場はやはりサブマリーナ、カジュアルな服装にはGMTマスターなど、TPOに応じてその日の気分で毎日のように取り換えて楽しんでいました。
他にも、ビジネスシーンでは普段使いで手巻きデイトナを身に着けていたりしましたが、最近はあまり使用せずにコレクションとして保管していることが多くなりましたね。
ポールニューマン Ref. 6263
画像:インタビュー者ご提供
ポールニューマン Ref. 6264
画像:インタビュー者ご提供
――普段使いにするには価値が上がり過ぎたのでしょうか?
市場価格の異常な高騰という面もありますが、やはりアンティークですからメンテナンス面での心配が大きいですね。
2005年ごろ、ロレックスが1987年くらいまでのスポーツモデルのオーバーホールを、部品がなくなり次第終了すると決定しました。リペア用部品の在庫の関係だそうです。
これを受けて、そのころに持っていた手巻きデイトナ(Ref.6263/6265)や、リファレンスが4桁のスポーツモデル、サブマリーナ(Ref.5512/5513/1680)、GMTマスター(Ref.1675)、エクスプローラーⅠ&Ⅱ(Ref.1016/1655)などを全てオーバーホールに出しました。
あえて必要以上のパーツ交換はしませんでしたが、オーバーホール代だけで100万円以上かかりましたね。
オーバーホールできないということになると、どうしても扱いは慎重にせざるを得ないです。

サブマリーナ Ref.1680
画像:インタビュー者ご提供
GMTマスター Ref.1675
画像:インタビュー者ご提供
エクスプローラーⅠ Ref.1016
画像:インタビュー者ご提供
エクスプローラーⅡ Ref.1655
画像:インタビュー者ご提供
――一斉オーバーホールによって、コレクションもぐっと価値を増したのではないですか。
古いモデルだと、店頭に並んでいる時点ですでに文字盤が汚れたりしているものが多いのですが、もともと私はオリジナルで状態の良いものを厳選して買っているので、私のコレクションしているものは相当綺麗だと思います。
ただ、ロレックスでのオーバーホールに際しては、当時は新品のパーツへの交換が良しとされていた時代でしたので(当時は現在のように汚れがあってもオリジナルが良いとされていなかった)、ロレックスに言われるがままにトリチウムの針や文字盤をルミナスに変更して後悔した経験もあります。今では新品パーツかオリジナルパーツかによって、リセールバリューに大きな違いが生まれています。
いずれにせよ、これらの時計はオーバーホール以降ほとんど使用していないので、素晴らしいコンディションを保っています。
――では、普段使いをしているモデルはどのようなものですか?
普段使いの時計は現行品が中心です。
現行品なら部品もあるので、傷ついたり壊れたりしてもオーバーホールに出せますし、飽きたとしても高値ですぐ売れますから(笑)。
現在は最新のデイトナ(Ref. 116500LN)やシードゥエラー・通称赤シード(Ref. 126600)、ジュビリーブレスのGMTマスターⅡ・通称ペプシ(Ref. 126710BLRO)などを使っています。
デイトナ Ref. 116500LN
画像:インタビュー者ご提供
シードゥエラー Ref. 126600
画像:インタビュー者ご提供
GMTマスターⅡ Ref. 126710BLRO
画像:インタビュー者ご提供
――ずばり、時計が好きな理由は何ですか?
そうですね、まずは何といってもメカニックな機械の魅力でしょうか。
クォーツではなく機械式時計だというところが一番重要です。
あとはデザインですね。
見た目が美しく、何十年も正確に時を刻み続ける実用性もあり、一般的に男性が普段身に着けるもので一番高価なものは時計ですから、ステータス性もあります。時計は自分にとっては最高のおもちゃです。
20歳のとき親父にもらった機械式のスポーツロレックスに目覚めてから、自分で色々な本を読んだり人から話を聞いたりして学び続けてきました。そうして調べれば調べるほど、興味の対象としての優先順位が上がっていきました。
車なども好きなのですが、やはり時計が一番身近で興味をそそられますね。
歳とともに物欲は減っていくと思っていたのですが、やっぱり時計のコレクションは最高。
まぁある種の病気みたいなものですね(笑)。
――年を経るごとに時計への愛が深まっていくのですね。
はい、たまに自分のコレクションを全部出してきて、磨いたりリューズを巻いて動かしたりして、テーブルに綺麗に並べて、バカラのタンブラーグラスでウイスキーを飲むんです。
一つ一つの時計にまつわる過去の思い出を思い返しながら飲むお酒は何よりも素晴らしいものですね。
どんなお店で飲むよりも最高で、いわゆる至福の時です。

20歳のときにロレックスと出会った時の興奮は、35年のときを経ても色褪せていない。
むしろ時計への愛は深まり、コレクションは更に彩られていくだろう。
長い間いろいろなものに出会ってきたけれど、やっぱり時計が一番好き。
彼にこう言わしめるロレックスの魅力は、まだまだ底知れない。