小さい頃に見た親の姿というのは、いつまでも印象に残っているものである。今回のコレクターは、1つの時計をずっと大切にしている父の姿を覚えていたという。
最初は時計の必要性を感じておらず、父がコレクターであることも知らなかったのに、いつの間にか自分自身も”時計を愛する父”になっていたというコレクターのストーリーを紹介したい。
取材協力:赤キチさん(http://instagram.com/watch_akakichi/)
文:kaorin 画像提供:赤キチさん |
――時計を集め始めたきっかけはどういったものだったのですか?
実は、最初は時計の必要性を全然感じていませんでした。
私が大学生の頃に携帯電話が発売されて、その後iPhoneシリーズが出てきたので、時計がなくても事足りていましたからね。
しかし、40代になって、上司として部下と一緒に部下が担当するお客様のところへ行く機会などが増えてきました。そういうときに、さすがにケータイで時間をみるのはあまりよくないなと思って、時計を着けることにしました。
――初めの一本から、いきなりロレックスだったのですか?
いいえ。
時計が必要になったとき、私が小さいころから父が時計を大切にしていたことを思い出したのです。
それがKING SEIKOで、父に欲しいと言ったのですが、絶対にくれませんでした(笑)
父が社会人になりたての頃に給料を2~3か月分貯めて買ったもので、とても思い入れが強かったようです。
そういうふうに一つのものをずっと大切にしている姿がとてもいいなと、子供のころに思った覚えがありますね。
くれないなら似たものを買おうと思って、私はGrand Seikoを買いました。
父が国産の時計をしていたので、私も国産にしたのです。
それが最初の一本でしたね。
――それからロレックスにたどり着くには、どのような経緯があったのでしょうか?
世代的な感覚かもしれませんが、最初ロレックスは派手なイメージがあって、あまりいい印象を持っていませんでした。
でも、偶然あるお店がリニューアルオープンした時に、立ち寄ってロレックスの試着をしてみたところ、その着け心地に感動してしまったのです。
Grand Seikoと比べて、しっとりと肌に吸い付くような、今までにない感覚でした。
その時計がヨットマスター(Ref. 116622)で、ロレックスの中でも特に着け心地がいい時計だったというのもあります。
初めの一本、ヨットマスター(Ref. 116622)
――それをきっかけにロレックスを購入するようになったのですね。
はい。ヨットマスターの後も3本購入しました。
2本目はエクスプローラーⅡ(Ref. 216570)です。
ヨットマスターは青いので、スーツに合わせると、若すぎな印象になってしまいます。
だったら次は白にしようと思って、爽やかなエクスプローラーⅡを選びました。
それで、白を買うと今度は黒が欲しくなるんですよね(笑)
仕事柄ニュ-ヨークの時間を気にしたいというのもあって、GMTマスターの黒(Ref. 116711)を買いました。
あとはGMTマスターのカフェオレ(Ref. 126711chnr)ですね。
スーツに絶対合う!と思って、1年くらいかけて買いました。
黒光りがスーツにバチっと決まるGMTマスター(Ref. 116711)
お気に入りのGMTマスター(Ref. 126711chnr)
カフェオレをつけているときは一番やる気が出るそう
――スーツに合うか、というのはかなり大きなポイントなのですね。
そうですね。
私は時計を選ぶ際にはデザインが一番大事だと考えていて、特にスーツに合って仕事がしやすいことを重視しています。
先日はヨットマスターをダークロジウムしました。
スーツに合わせやすくなった一方で、視認性が悪くなるのではないかと心配でしたが、特にそういうこともなくて、よかったです。
――ご家族の反応はどうですか?
家族は全く時計に興味を示さないですね(笑)
時計に思い入れがあるのは家族の中では父ぐらいでしたが、その父も去年亡くなりました。
兄は時計に興味がないので、父の時計を私が譲り受けたのですが、父はいつも着けていた時計の他にも何本も時計を持っていたということを初めて知りました。父の書斎を整理していたら出てきたんです。
なかにはGrand Seikoで、2年くらいしか造られていない希少なモデルもありました。
それでも、お気に入りのKING SEIKOの時計しか着けていなかったのですね。
――お父上も時計コレクターだったことに、亡くなってから気が付いたということですか。お父上のコレクションはご自身も着けたりするのですか?
はい。でもやはり半世紀以上前の時計ですからね。古くて防水機能もありません。
ですので、秋とか冬に限られてしまいますが、ひとつひとつオーバーホールに出し、オーバーホールが終わったものから着けはじめています。
――ご自身もゆくゆくは、お子様に時計を受け継いでいかれるのですか?
娘はコレクションを見ても「腕は2本しかないのに」と言うくらいなので(笑)、本人には譲れなさそうだなと思っています。
でも娘が将来結婚したら、旦那さんにあげてもいいと思っています。
気に入ってくれるかはわかりませんが(笑)
赤キチさんのコレクション
お酒を飲みながら、毎晩丁寧に磨かれている
赤キチさんとお父上は、時計を集めはじめたきっかけも違えば、集めている時計のタイプも異なっている。直接その楽しみを伝えられたわけでもないし、そもそもお父上がKING SEIKO以外の時計を持っていることも知らなかったという。
それでも、知らず知らずのうちに、同じ時計コレクターの道を歩んでいるのだから、これはもう血を受け継いだというしかないだろう。
GMTマスターカフェオレをはじめとする赤キチさんの時計は、きっとお父上のKING SEIKOとともに、誰かに受け継がれ、それを受け継いだ誰かもまた、自分のお気に入りの一本を見つけて大切にしていくに違いない。もしそうなったら、たとえ血がつながっていてもいなくても、コレクターの血はたしかに受け継がれているといっていいはずだ。