腕時計界の王者と呼ばれるロレックスには、希少性が高くなかなか手に入らないモデルも多い。そんなモデルは、店頭で出会えることそのものが奇跡であると言っても過言ではない。今回インタビューを行ったコレクターは、人生の中でも数日とない大切な日に、偶然希少なロレックスを買うことができたのだという。まるで物語のような、ロレックスならではのエピソードを紹介したい。
ーーロレックスを初めて買ったきっかけを教えてください。
20歳の頃、水商売でアルバイトをしていたのですが、お客さんや同級生がみんなロレックスをつけていました。当時はバブルの真っ盛りで、時計といえばロレックスのデイトジャストという時代だったんです。私も見栄や自慢のために、当時乗っていた車を売って、そのお金でデイトジャストを買いました。
画像:rolex.seikiさんご提供。
ーー初めは見栄のためだったんですね。でも自分のお金で買って身につけていると、やっぱり愛着がわいてきたりしたのではないですか?
そうですね。デイトジャストをつけているうちに、愛着は湧いてきました。ロレックスをつけていると周りからも一目置かれますし、堂々としていることもできました。でも、その後だんだんとロレックスを身につけるのが嫌になってきたんです。
ーーそれはなぜでしょうか?
その頃はみんなコンビのデイトジャストをしていたのですが、これをつけるのはいかにもミーハーでお金持ちアピールしているみたいに感じるようになってきてしまって。
私は人と違うロレックスが欲しくなったこともあって、デイトナを買おうとしたんです。しかし、金銭的な問題と非常に多くの予約待ちが入っていたことが重なって、デイトナを買うのを諦めてしまいました。
それ以来、ロレックス自体が嫌いになったわけではないのですが、ロレックスをつけるのをやめてしまいました。
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ーーそれからは、ロレックス以外の時計を買うようになったのでしょうか?
時計自体は好きだったので、ロレックスをつけるのをやめてからはグッチやタグホイヤーやラドーなどのロレックス以外のものをつけていました。その後も、つい数年前までIWCやHUBLOT、ブレゲなど色々渡り歩いてきました。
ところが、たまたま2017年に、あるきっかけで久しぶりにロレックスを買ったんです。それで30年ぶりにロレックスをつけてみたのですが、つけていると次第にその良さを実感してきて、時計はやっぱりロレックスだと改めて思いました。それ以降はロレックスしか買っていません。30年くらい浮気をしていましたが、結局ロレックスに戻ってきたというわけです。
ーー30年ぶり! それはすごい。2017年にロレックスを買ったきっかけは何だったのでしょうか?
ロレックスの新店舗がオープンするというので、行ってみたんです。そうしたら、なんとそこでたまたまデイトナの116500LNが買えたんです。かつて買うのを諦めてしまったデイトナが30年越しに手に入ってしまったという。改めて身につけてみると、とても気持ちが良かったんですよね。他の時計のブランドに比べても、やはりロレックスは気持ちが良く頑丈で、毎日つけても大丈夫だった。それでロレックス熱に再び火が付いたのです。
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ーーお持ちのロレックスの中で、最もお気に入りのモデルは何でしょうか?
デイトナの116500LNです。
ーーそれは何か理由があるのでしょうか?
よくぞ聞いてくれました。2017年の5月にそのデイトナを買って自分で使っているのですが、実は10月に同じものがもう一本買えたんです。その二本目を買えた日というのが、偶然にも息子の二十歳の誕生日だったんです! 保証書にもカードにも、ちょうど息子の誕生日の日付が書いてあります。いつ買えるかわからない希少な時計が、たまたま息子の二十歳の誕生日に買えたのです。
ーーすごい偶然ですね! その時計は息子さんに?
いえ、実はその時計は息子にはまだ渡さずに大切に保管しています。成人のお祝いにと思って買ったのですが、20歳でロレックスは偉そうかなと思って、息子には別の時計をあげました(笑)。 息子の誕生日に買った時計はずっと置いといて、自分が死んだ時に形見になるようにしたいと思っています。保証書に息子の名前と20歳の誕生日が書いてあったら、息子は感動するんじゃないかと思うんですよね。
ーーそれは素敵ですね。息子さんも絶対うれしいと思います。
実は父から息子への手紙も書いてあります。泣かせてやろうと思いまして(笑)。
息子の20歳の誕生日に買えたことは何か運命的なものを感じますし、物自体がいいことも私自身30年越しに実感していますので、このロレックスはできることなら代々受け継いでいってほしいと思っています。
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イラスト:ロレ子さん
かつて若いころに諦めたデイトナに20年の時を超えて再び出会ったのが偶然なら、息子さんの二十歳の誕生日に、出会うことも難しいようなデイトナをたまたま買えたというのは、もはや偶然を超えた運命と呼ぶほかないだろう。
多くの愛好家に会ってロレックスにまつわる話を聞いていると、ときどきこんな物語のようなエピソードを聞けることがある。世代を超えて持つ人の人生に寄り添うロレックスは、必然的に人生の物語に立ち会うことが多くなるものだが、時としてロレックス自らが運命のように出会いを引き寄せて、聞く人の心を動かす物語を紡ぎ出す力を持っているのかもしれない。
取材協力/rolex.seikiさん
文/モカ
写真/rolex.seikiさん