「趣味で人助け」と聞くと、どんなことを思い浮かべるだろうか?
環境保護や福祉施設のボランティアなど、いろいろとあるだろう。
しかしそれらは、どちらかといえば「趣味が人助け」というべきかもしれない。
今回、文字通り「時計集めという趣味で人助け」する方に出会った。
集めるだけにとどまらない、コレクターの楽しみのあり方について話を聞いた。
取材協力:イササカ先生さん(https://twitter.com/hashiiiiiiiXEM)
文:kaorin 画像提供:イササカ先生さん |
ーー時計をコレクションするにあたって、あまり他の人と被らないモデルにこだわって集めていらっしゃるそうですね。
はい。ここ1年くらいは、人と被らないモデルということも考えて時計を選んでいます。
ーーコレクター歴は13年ということですから、モデルの選定基準が変わったのはわりと最近なのですね。
はい、それまでは僕もデイトナなどの流行モデルを買っていました。
時計をコレクションする場合、まずは流行モデルなどの欲しいモデルを買っていって、ひととおり欲しい時計が集まったら、あとはそこで時計集めをいったん終わりにするか、もしくは違う方向性で時計を集めていくかになると思います。
それで僕は後者を選んだということです。
ロレックスでいえば、GMTマスター2のメテオライト(Ref.126719BLRO)やスカイドゥエラーのホワイトゴールド(Ref. 326934)のような方向性ですね。
左端、右端はGMTマスター メテオライト、中央はデイトナのソーダライト(Ref. 116509)
隕石や天然石のダイヤルが神秘的で目を離せない
スカイドゥエラーのホワイトゴールド
その名を体現するような美しい青に惹かれる
ーーそのような珍しいモデルの魅力はどんなところですか?
もちろん、デザインが好きというところが一番ですね。
あとは、SNSで出会った人が時計を見るためだけに会いに来てくれることもあります。
僕も時計が見たくて人に会いに行くことがよくあります。
ロレックスのカタログはCGですので、やはり実物が見られるとなると嬉しいです。
ーーSNSでつながった人とはどのような交流をされているのですか?
時計を見せてもらいに行ったり、来てもらったりしています。
そうやって出会う人たちは高級時計を複数本所有している人たちなので、やはり独特の感性を持っている気がします。
イササカ先生さんと友人の方でお茶をした時のコレクション
人気モデルが揃うそうそうたる面々
「THE BLAUSEE PROJECT」でカスタムされたデイトナ(Ref. 116505)とエアキング(Ref. 116900)
見ていて飽きない、美しさとかわいらしさのペア
ーーご自身もその一人として、どのような感性をお持ちですか?
感性とはちょっと違うかもしれませんが、僕は時計を大事にしてくれる人に時計を譲ることがあります。それから、本当に時計が欲しいと思っている人を手伝ってあげたくなってしまうことも多いです。
むしろ、今の僕の活動はそのような誰かのお手伝いがメインです。
ーーお手伝いというのは、具体的にはどんなことですか。
例えば、SNSで出会った方の一人は、10年くらい正規店でデイトナ(Ref. 116520)などを探し続けています。時計のためなら他県まで足を運ぶような熱心な方なので、ぜひその方にデイトナを買って欲しいと思うのですが、なかなかうまくいっていないのです。
ーー10年ですか。かなりの年数ですね。
そうなんです。現在デイトナは、メーカーの意向や中古市場でのプレミア価格で、普通には買えなくなっています。
お店の規模にもよりますが、デイトナを買いたいと待っている人は、1店舗あたりおよそ1000人くらいいるそうです。
単純に考えると、お店に入ってパッと買えるのは1000分の1の確率なのです。
デイトナを買うためにはその1000分の1の1人にならなければならないのですが、そのためにはどのような行動をとるべきか、ということをお伝えしています。
ーーなるほど。お店は1000人の中からどのような一人を選ぶのでしょうか?
これは僕の持論ですが、店員さんは100万円をあげてもいいと思う人を選んでいると思います。
デイトナは、中古市場での価格は正規店の価格を約100万円上回っています。そうなるともう、誰にでも売っていいものではないことは明らかですよね。
店員さんは、こういう状況を踏まえて、この人になら万が一中古市場に売られてしまってもいい、という方を選ぶのです。
左から、デイトナ(Ref. 116500LN)、GMTマスター2のメテオライト、
GMTマスター2(Ref. 16710)、GMTマスター2(Ref. 126710BLNR)
ーーそれはどのようなところ見て判断しているのですか?
好き嫌いもあるかもしれませんが、身なりや話、どれだけの期間探しているかなど、さまざまな要素があります。
ある程度こういう基準が想定できるわけですから、逆に言うと、買いたい人は売ってもらえる状態を自分で作ればいいわけですよね。
ーーお知り合いの10年探されている方の場合はいかがですか?
先ほど挙げた要素のうち、どれだけの期間探しているかという点については、良い方にも悪い方にも働きます。
10年探しても手に入らないというのは、店員さんからも、その人に何かあるのではないかと思われてしまいかねないのです。
だからこそ、短い期間で自分を変える努力をした方がいいと本人にも伝えました。
ーー自分を変えるとは、具体的にどのようなことですか?
まずは、身なりをきちんとすることをアドバイスしました。
ロレックス正規店にふさわしい髪形や、髭を剃るといったことです。
ーー手ごたえはいかがでしたか?
驚くべきことに、最近髪を切ってきてくれました!
おそらく、その方は長い年月にわたって髪型も含めて同じスタイルでいたと思うのですが、やはりどうしてもデイトナが欲しいから、とのことです。
ーーお互いの強い気持ちで一歩踏み出したのですね! とはいえ、SNSで出会った方に厳しいことをいうのはかなり勇気がいることですよね。
はい、まさにそうなんです。その方は年上ですし、嫌われてしまうかもとも思いました。
SNSで知り合った年下の人にアドバイスされても、それを実行できる人はなかなかいないと思います。大概はブロックして、もういいやとなってしまいますよね(笑)
でも、その人はしっかり受け止めてくれたのです。
すごく感動しましたし、その方には絶対に正規店でデイトナを買ってもらおうと思いました。
他の愛好家にも希少な時計を手に入れてほしいという思いから、嫌われてしまうリスクを負ってまで相手のためにアドバイスするというのは、決して誰にでもできることではない。自分だけのコレクションの楽しみから、コレクションの喜びを共有する楽しみへ。ベテランコレクターならではの、違うステージのコレクターのあり方を教えてもらった。